2000年の博士課程進学後は、以下に述べる恒星風の研究も開始したが、宇宙線
の分野においても、特にリチウム6同位対に関して、以下のような
興味深い結果が得られた。
銀河初期にはリチウム6同位体量の観測値が理論値を大きく上回り、
未解決の課題として残されていた。私達は、「銀河系形成に伴う衝撃波で加速
された宇宙線によるリチウム6生成」過程を導入することにより、この矛盾は
解消されることを指摘した(
Suzuki & Inoue 2002 )。
この生成過程は、私達の指摘まで全く見落とされていたもので、リチウム6生成を、
この過程を加え定量的に評価し直すことにより、この撞着が解消することを示した
のである。
さらに、今後のリチウム6の観測の進歩により、我々の天の川銀河形成の証拠を、
近い将来世界で初めて捉えることが可能であるという、理論的予測をした。
すなわち、Li-6同位体により、銀河の考古学を発展させることができるという
ものである。
Li-6(赤)とBe-9(青)の進化の比較。実線は構造形成衝撃波
による宇宙線加速を考慮した場合、破線は考慮しない(超新星のみ)場合。