• 初期銀河系における軽元素生成と銀河系宇宙線

    きっかけ

    ヘリウムより重く、炭素より軽い元素である陽子数3ー5のリチウム、ベリリ ウム、ボロン(ホウ素)は、炭素より重い(天文学的な)重元素に対し、軽元素 と呼ばれている。これらの元素は地球上には非常に微量にしか存在しないが、宇 宙における軽元素の起源が、重元素の起源と全く異なっているという点で非常に 興味深いものがある。具体的にいうと、重元素は主に星の内部や大質量星の最後 である超新星爆発により生成されて宇宙に蓄積されてきたが、軽元素はまず宇宙 最初の数分におけるビッグバン元素合成で作られた後、主に宇宙線と呼ばれる高 速で宇宙を飛び回る荷電粒子の原子核反応で生成されたと考えられている。 従ってこの軽元素の進化を宇宙あるいは銀河の進化のスケールで追うことにより、 逆に宇宙線の過去から現在における様相の変化などにも何らかの示唆を与えるこ とが出来ると考えられる。 1998年に大学院入学後、東大天文センターの吉井 譲氏、国立天文台の梶野 敏 貴氏の指導のもと、特に銀河系の初期における宇宙線と軽元素の進化の研究を 開始した。

    修士時代は、手厚い指導のもと、(Suzuki, Yoshii, & Kajino 1999, Suzuki, Yoshii & Beers 2000, Suzuki & Yoshii 2001)らの論文を執筆した。

    Li6銀河考古学

    2000年の博士課程進学後は、以下に述べる恒星風の研究も開始したが、宇宙線 の分野においても、特にリチウム6同位対に関して、以下のような 興味深い結果が得られた。 銀河初期にはリチウム6同位体量の観測値が理論値を大きく上回り、 未解決の課題として残されていた。私達は、「銀河系形成に伴う衝撃波で加速 された宇宙線によるリチウム6生成」過程を導入することにより、この矛盾は 解消されることを指摘した( Suzuki & Inoue 2002 )。 この生成過程は、私達の指摘まで全く見落とされていたもので、リチウム6生成を、 この過程を加え定量的に評価し直すことにより、この撞着が解消することを示した のである。 さらに、今後のリチウム6の観測の進歩により、我々の天の川銀河形成の証拠を、 近い将来世界で初めて捉えることが可能であるという、理論的予測をした。 すなわち、Li-6同位体により、銀河の考古学を発展させることができるという ものである。

    Li-6(赤)とBe-9(青)の進化の比較。実線は構造形成衝撃波 による宇宙線加速を考慮した場合、破線は考慮しない(超新星のみ)場合。



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