太陽コロナ加熱、太陽風加速のおおもとのエネルギーは、表面対流層直下の乱流に
あると考えられている。問題は、如何にしてそのエネルギーを上空のコロナまで
(波や磁場等の非熱的エネルギーとして)持ち上げ、熱化させるかというところ
にある。
このようなコロナプラズマにおける加熱加速機構の研究に関して、これまで以下の
ような結果を得ている。
太陽コロナの加熱、太陽風加速の統一的解釈は未解決のまま残されている主要な
課題の1つである。
コロナ加熱機構はこれまで、いくつか提案されてきたが、決定的なものはない。
わたしは、これまで重要とは考えられていなかった、音波(縦波)モードの波の
熱化による加熱を取り入れたモデル計算を行なった。近年、
主に磁気リコネクション過程により引き起こされると考えられる
爆発的エネルギー解放現象であるフレアの中でも小スケールのものが、
光球表面だけではなく、上空のコロナ内でも音波を生成しているという指摘がなさ
れている。このことを手がかりに、私は、このコロナ内で励起された音波の役割の
吟味を行なった。
その中で、音波は100万度までコロナを加熱し得るが、太陽風加速にはより減衰長
の長い(減衰の遅い)他の加熱、加速源との協力が必要であるという結論を得た。
言い替えれば、音波モードは無視し得ないコロナ加熱機構であり、今後、さらに
緻密なモデル化と定量性の検討が必要であることを示唆している。
(Suzuki 2002)
さらに、上記の音波加熱との協力過程として、より減衰長の長い横波加熱過程の
研究を行なった。
磁力線方向に伝わる横波のうち、直線偏波したアルフベン波は非線形項まで考える
と圧縮性波動で、速い衝撃波を作り周囲のガスを加熱する。
しかしながら、音波(正確には磁気流体中の遅い波)に比べ減衰は遅く、結果として、
外部コロナの加熱、さらには圧力勾配による太陽風加速に効果的であると考えられる。
以上の推論に基づき、音波、直線偏波アルフベン波の両方の伝搬を考慮した2温度
(陽子+電子)コロナの定常数値計算を行ない、コロナ加熱、太陽風加速における
上記2種類の波動の役割を調査した。
その結果、音波は下部コロナを効果的に加熱することによりコロナの密度を上げ、
赤道域から吹く低速太陽風で重要な役割を果たし、直線偏波アルフベン波は効果的
な加速により、太陽活動が弱い時期に極域から吹く高速太陽風の加速の大部分を
担い得るという結果を得た。(Suzuki 2004)
コロナホール(磁場の開いた領域)からの太陽風
ここまで、定常計算に基づくモデル研究であった。しかしながら、太陽コロナ、太陽
風中の波動現象は非線形過程のオンパレードである。これは波が上層に伝わ
るに従い、周囲の密度減少に見合うよう振幅が急激に増大するためである。
やがては、振幅が位相速度を越える、すなわち、非線形になるのである。
定常近似の下では、このような過程を首尾一貫して取り扱うことは不可能であ
る。そこで、京大天体核時代に犬塚氏と共に、非定常磁気流体シミュレーショ
ンを始めた。
シミュレーション結果(赤い線)と観測値の比較; 我々の前
進法的シミュレーションが、観測値を自然に再現した。
そして、太陽表面から充分外側までの領域をカバーする、
非定常磁気流体シミュレーションに初めて成功し、
磁力線構造の開いた領域でのコロナ加熱と太陽風加速は、表面対流層の自然の
帰結であることを示した
(Suzuki & Inutsuka 2005)。
表面擾乱により励起されたアルフベン波(磁力線
上を伝わる横波)が、上空まで伝搬し、圧縮性波動の生成や波の反射により効
率良く減衰し、外層のガスの加熱と加速を効率良く行なうことを、直接的な方
法により明らかにしたということである。
各物理量の時間(縦軸)-距離(横軸)図。青、赤の領域は、振
幅がある一定値より大きい部分。このパターンの傾きが、波の伝搬速度を表し
ている。右2枚のパネルには上下方向に伝搬するアルフベン波、左2枚のパネルには音波が見える。
さらに、磁力線の強度や形状、光球での擾乱振幅の速度が異なった場合につい
ても計算し、高速風と低速風の統一的解釈や、太陽風の消失現象についても、
非線形アルフベンが重要な役割を果たし得ることを示した
(Suzuki & Inutsuka 2006)。
アルフベン波駆動による太陽風加速過程を、太陽風速度の決定にも応用した。
そして、非線形アルフベン波の減衰は、太陽風速度が表面の磁場強度と磁束管
の開き具合の比に比例するという観測結果を、非常に良く説明することを示し
た(Suzuki 2006)。