天体風駆動 -太陽風研究の応用-
赤色巨星風 -コロナの消失-
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太陽に代表される中小質量星が進化した時に、恒星風の状況がどのように変化
するかを、上記の太陽風のシミュレーションを応用することにより調べた。
赤色巨星は表面対流層を持ち、恒星風駆動のおおもとのエネルギーもやはりこ
の対流層の乱流のエネルギーであると考えられる。この乱流のエネルギーが波動
等を介して上空に渡され、恒星風を駆動するのである。この過程は上記の太陽風
と本質的に同じであり、違いは中心星の重力の強さや表面対流層の擾乱の強さ
である。太陽風で用いた磁気流体コードの中心星を赤色巨星に変え、対流フラッ
クスから見積もられた値を表面の擾乱速度として注入する。 そして、下左図
のHR図中の6つ星について恒星風のシミュレーションを行った。
(左)シミュレーションした星のHR図中での位置。太陽質量のものを主系列から
巨星段階にかけて4つと、3倍の太陽質量の巨星を2つ。ハッチを付けた赤線が
コロナ/冷たい星風境界線である。 (右)恒星風構造の進化。実線が太陽質量の
星、破線が3倍の太陽質量の星。上から速度、温度、密度を太陽半径で規格化
した半径に対してプロットしたもの。
右上図は恒星進化と共に、時間平均した恒星風構造がどのように変化するかを
示したものである。主系列星(ここでは太陽)や準巨星では定常的な高温のコロ
ナが恒星風として吹き出しているが、コロナ/冷たい星風境界線を越える少し
前に定常コロナが消失し、質量放出率の大きな星風となることが分かる。
赤色巨星では、激しく時間依存しながら恒星風が吹き出していくというのも重
要な点である。これは輻射冷却による熱不安定性が原因となっている。すなわ
ち、太陽組成のガスでは10万度付近が熱不安定であり、100万度程度か数万度
以下のガスしか安定して存在することができない。結果として恒星風は多温度
相に分かれ、圧力バランスと質量保存を満たすよう、密度と速度もバタつく。
赤色巨星風は、スムースな定常的ウィンドではなく、細かい構造を持って吹き
出しているということである。
赤色巨星風のシミュレーションの一例は
こちらにあるので、ご参照頂ければと思う。
(Suzuki 2007).
中性子星風
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速い中性子捕獲過程(r過程)は、鉄より重い原子核を生成する主要過程の1つで
ある。しかしながら、どのような場所で起こっているのかは、未だ未確定である。
我々は、太陽でのモデル(Suzuki 2004)を応用することにより、超新星爆発直
後に形成される原始中性子星風でのアルフベン波の役割を調査した。
そして、表面磁場強度が5 x 10^{14}G であれば、
中性子星風の構造に影響を与え、r過程元素合成に都合の良い環境を
提供可能であることを示した
(Suzuki & Nagataki 2005)。
磁気回転星からの星風
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渦巻構造の磁力線を持つ磁気回転星外層では、磁気流体的速い波が
曲がった磁力線中を伝搬する過程で、波の性質が変わり、無衝突過程
により、効果的に減衰する。
一般的な振幅を持つ波では、本過程が非常に重要であり、
X線/UV観測から推測される大質量星、および、若い中小質量星外層の
コロナ、恒星風活動を十分説明可能であるという結論を得た
(Suzuki, Yan, Lazarian & Cassinelli 2006)。
銀河団の冷却流の抑制
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上記の太陽コロナでの解析は、長さスケールにして15桁近くも大きな銀河団に
おける加熱現象にも適用可能ではないかという提案が、国立天文台理論部の藤田氏
によりなされた。そして藤田氏、同じく国立天文台理論部の和田氏との共同研究
により、太陽コロナでの波加熱の定式化を、銀河団での波の伝搬、加熱を記述する
式に改良し、冷却流銀河団における波加熱のモデル計算、及び、
非定常シミュレーションを行なった。
その結果、銀河団外部の乱流により励起された音波(正確には、ガス圧が磁気圧より
大きい磁気流体における速い波)は、銀河団の中心付近の加熱に十分寄与し、
冷却流を抑制することが可能であるという指摘を行なった。
(Fujita, Suzuki, & Wada 2004)
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