(1c) 生命進化と環境変動
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(0) 表層環境:研究内容
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(1) 全球凍結とは

 地球は、これまでに何回か、赤道域の海洋も含め氷で覆われたことがあったとされる。このような地球全体が氷に覆われるイベントを全球凍結という。

 地球が完全に凍りつくと、白い氷に覆われてしまうので地球全体のアルベドが高くなり(通常3割程度だが完全に白い氷に覆われると8割程度になってしまう)、再び氷が融けるのは困難とされるため、そのようなことは地球史において起きなかったとされてきたが、1992年にカーシュビンクによってそのようなことが提唱され、90年代末に地質学的にも多くの証拠が見つかり(ホフマングループ)、現在は広く認知されている。

 当初は29, 24, 7.5, 6.3, 5.8億年前頃に、全球凍結が起きたとされたが、現在は5.8億年前の氷期イベント(ガスキアーズ氷期)は全球凍結まで至らなかったとされ、7.5億年前のイベント(スターチアン氷期)も全球凍結ではなかったとする証拠が多く出されている。また、29億年前は南アフリカ共和国やインドで、小規模にその証拠が見られるだけなので、まだ不確定とされる。結局、現在は、24億年前(ヒューロニアン全球凍結)と6.3億年前(マリノアン全球凍結)だけが、全球凍結であったとされる。

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 原生代後期の全球凍結堆積物が残されている場所と古緯度

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 ①全球凍結が起きた時の地球平均気温の変化。全球凍結時は-50˚Cにも達するとともに、全球凍結後は大気中のCO2濃度が極めて高くなるために、極端な高温環境となる。
 ②南中国の全球凍結時の堆積物(氷河性堆積物:Nantuo Tillite)と直後の堆積物(Cap carbonate)
南中国の写真はこちら

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 全球凍結の原因は未だ分かっていない。その鍵は全球凍結直前と全球凍結中の堆積物が唯一残っているスバルバードにある。

スバルバードの写真はこちら
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(2) 原生代末の全球凍結からカンブリア大爆発

 6.3億年前の全球凍結からカンブリア前期までの間に、多細胞動物が出現し、急激に多様化し、全ての動物門が出現するようになる。多細胞動物の出現とその多様化の原因は未だ生命進化の最大の謎で、真核生物の出現から13億年もかかっており、多細胞藻類の出現からも6億年以上もかかっている。
 一般に酸素増加によるとされるが、私たちは酸素の増加も結果であって、究極の原因は他にあると考え、その原因を探る研究を行っている。

 酸素濃度と生命進化の図。多細胞化に必要なコラーゲンは酸素がないと合成されないため、一般に、酸素の増加が多細胞動物の出現と進化を引き起こしたとされる。
 しかし、この時代の酸素濃度推定の多くは生命進化からされており、酸素濃度を独立に推定されてはいない。
 多細胞藻類などは、12億年前以前に出現しているので、多細胞動物の出現に必要な酸素濃度はもっと前から確立されていたかもしれない。

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 6.3億年前の全球凍結(Marinoan全球凍結)直後に、動物胚の化石が出現する。現在、この胚化石の成体は未だ不明だが、後生動物の祖先とされる。また、未だ議論は続いているが、全球凍結以前に海綿動物のバイマオーカーが産するとの報告もある(当初、海綿動物のみが保持するとされたが、最近はバクテリアなども保持する可能性が指摘されている)。
 一方、Gaskier氷期後にエディアカラ動物群が出現し、カンブリア紀にそれらは絶滅する。
 特に、硬骨格を持つ最古の動物はエディアカラ紀後期のCloudinaで、海綿動物の化石は産するものの海綿動物に特徴的な骨針は約550Maまで産しない。つまり、エディアカラ紀後期まで、硬骨格の証拠は存在しないとされる。(ただし、私たちのグループは骨針を含む海綿動物の休眠胞子をエディアカラ紀前期の地層から見つけている, Du et al., 2015)。また、移動性の動物(KimberellaやDickinsonia)もエディアカラ紀後期以降に出現する。

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(3) 南中国のエディアカラ紀〜カンブリア紀の掘削
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 エディアカラ紀からカンブリア紀の環境(特に海水組成)を解読するために、南中国で掘削を行い、新鮮(堆積時は酸素に乏しかったので、現在の酸化大気に触れると酸化・風化してしまう)な連続試料を採取。

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drilling
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(4) エディアカラ紀〜カンブリア紀の海水組成

 掘削試料の他元素・多同位体解析から当時の海水組成の復元をする。

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chemostratigraphy

 多元素・多同位体分析によって、当時の環境を総合的に解読している。

①炭素同位体組成からは生物活動が分かり、原生代後期からカンブリア紀に、炭素同位体値が下がる時期が5回存在する。この時期は、従属栄養の微生物や多細胞動物の活動が活発になったことを示す。

②酸素同位体値は一般に海水温の変動を示すとされる。しかし、酸素は水に多く含まれているため(H2Oなので)、変質の影響を強く受け易く、雨水が当たっても変化すると言われるほど変質に弱い。そのため、原生代はもちろん、顕生代の中生代や古生代でも酸素同位体を用いた研究は限られている。しかし、掘削試料を用いた本研究では特にエディアカラ紀前半で酸素同位体値が高く、酸素同位体値を用いた環境復元が可能となっている。この時代は比較的寒冷で、特にエディアカラ紀中期にガスキアーズ氷期による寒冷化が再現できている(世界初のデータ)

③大陸からの物質の流入を示すSr同位体値の急上昇が3回存在する。その時期は全て、後生動物の進化(後生動物の出現、エディアカラ動物の出現、カンブリア動物出現)の直前となっている(世界初のデータ)

④エディアカラ紀はずっとリン濃度が高い(世界初のデータ)。大陸浸食量の増加に伴い海水中の生命必須元素が増加して、後生動物の出現、エディアカラ動物群の出現、硬骨格後生動物の出現が起きたことが実証できた。

⑤エディアカラ紀後期に、リン濃度の低下、Ca同位体値と窒素同位体値の低下が起こる。これらは、それぞれ、海水中のリン濃度の減少、Ca濃度の上昇、硝酸濃度の増加を意味する。そのタイミングが硬骨格動物の出現や移動性の動物の出現時期とかさなる。
 酸素濃度の増加が海水中のリン濃度を低下させ、そのリンの減少が相対的に硝酸濃度を増加させたと考えられる。海水のP/N比の低下は高N/P比を有する生物の一次生産を促進するため、動物は効率的に窒素を摂取することが可能となり、酸素濃度の増加とともに移動性の動物の出現につながったと考えられる。また、海水中のCaの増加は硬骨格の出現を促したと考えられる。

 このように、動物の進化は海水組成と密接に関連しているように思われる。単純に酸素濃度というわけではなさそうだ。まだ、まだ、面白いことはある。それ以外の生命必須元素Mo, Ni, Cu, Siなどはどうなのか?

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(5) 後生動物の出現/進化(カンブリア爆発)と海水組成

復元した海洋の生命必須元素含有量と生命進化の比較

 エディアカラ紀からカンブリア紀の生命進化は海水組成進化と極めてよく対応。当時の生命進化は海水組成の変化(表層環境変動)によって、引き起こされていた。このことは当時の動物は必要な遺伝子はすでに有しており、すべての動物が環境変動に即座に対応し、同時に進化したのかもしれない。

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(7) その他

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