この中で、特に今回のシステムの特色となるのは、姿勢制御システムである。 これについて、以下に概説する。
姿勢制御は、フライホイールを用いた方位角制御を行う。 その際に新しい方式として、1) 制御用参照信号を産み出すセンサーとして、ジャイロメーターの採用、2) 参照信号のデジタル処理、の2点を採用する。 これにより、以下の各特色が得られる。
1) について、これまの1軸地磁気センサーに替えてジャイロメーターを採用したことにより、ゴンドラの振り子運動の、参照信号への回り込みを防げる。 何故なら、1軸地磁気センサーの場合には、ゴンドラの方位各方向の回転と、これに直交する軸回りの回転とは原理的に区別出来ないのに対し、ジャイロメーターは、ある定まった軸(この場合は鉛直軸)回りの回転にしか感度を持たない為である。 ゴンドラの方位角制御を行った際、歳差運動によりゴンドラの振り子運動が励起され、これが参照信号へ回り込むことに因る制御の発振が、これまで度々問題となって来た。 今回のジャイロメーターの採用により、この発振を回避できるものと考える。
2)について、 これまで参照信号の処理はアナログ回路を用いて行っていた為、参照信号に対応してフライホイールの回転速度、加速度を決定する際の計算式や係数を、即座に、且つ大きく変更することが困難であった。 デジタル回路の採用により、この計算式や係数を、自由に変更することが可能となる。 これは、今回の主要な目的の一つである汎用システムの確立に於て、重要な能力である。 何故なら、多様な望遠鏡、検出器を載せ替える汎用システムでは、ゴンドラ全体の回転モーメントや、必要とされる姿勢制御の精度、更には天体の観測方法(1点を見つめるポインティング観測か、ある領域をマッピングするサーベイ観測か、等)の変更に、簡単に対応できることが求められるからである。 デジタル回路の採用により、これらの変更に、回路の大きな変更無くして対応することが可能となる。
我々は、以上に記述した方式による、姿勢制御の試験を行った。 図1にその一例として、目標角からゴンドラ方位角が1o離れた状態で制御を開始した際の、ゴンドラ方位角の推移を示す。 横軸は制御開始後の時間、縦軸はゴンドラ方位角の誤差信号(ジャイロメーターで測定)である。 開始5秒後以降のデータについては、図中に拡大図を併せて示す。 制御開始後約5秒余の後は、角度誤差2/1000oで安定した制御が実現されていることが分かる。 この結果を含め、この姿勢制御方式は、高い姿勢制御精度( p-p)を達成でき、また擾乱に強く発振しにくいことが確認された。
Figure 1: 姿勢制御試験の一例。横軸は制御開始後の時間、縦軸はゴンドラ方位角の誤差信号(ジャイロメーターで測定)。開始5秒後以降のデータについては、図中に拡大図を併せて示す。コントロール開始後約5秒余の後は、角度誤差2/1000oで安定した制御が実現されていることが分かる。