2.2 量子ドットによるフォトンカウント

2次元電子系によるフォトン吸収をシグナルとして検出する為、ここでは量子ドットを用いる。

2cに量子ドットの構造を示す。

 

 


Figure 2: 量子ドット(quantum dot)の構造および動作原理。文献[1]より引用。

AlGaAs/GaAs結晶の表面に電極を配し、これに負電圧を加える。 この負電圧により、2次元電子系中の電子は電極から遠ざけられ、一部(数百個)の電子が電極に囲まれた領域に束縛される(図2a)。 この様に電子が量子スケールの空間内に束縛された状態を、量子ドット(quantum dot)と呼ぶ。

この量子ドットに紙面水平方向のバイアス電場を加えると、量子ドット左右の電極間のチャネルを通ってトンネル電流が流れる。 但し電子がチャネルの障壁をトンネル出来るのは、トンネル前と後で同じエネルギー状態が許容される場合であり、すなわち量子ドット内の量子化されたエネルギーレベル(の1つ)がフェルミエネルギーに等しい(共鳴状態にある)場合に限られる。

2c中 control gate の電圧を微調整する事により、この共鳴状態を制御する事ができる。 この様子を図2dの実線に示す。 横軸の control gate 電圧を変化させ、縦軸の conductance に示されるトンネル電流値を制御出来る事が分かる。

すなわち、量子ドットはトランジスタとしての働きを持つ(共鳴トンネルトランジスタと呼ぶ)。

量子ドット中の電子が入射フォトンを吸収すると、その電子は一つ上のランダウレベルに励起され、電子-ホールペアーが形成される(図2b)。 生成された電子及びホールはフォノンと相互作用しながら各々のランダウレベル中のフェルミエネルギーに緩和する。 この過程は比較的短いタイムスケール(nsecオーダー)で進行する。 以上の結果、電子が外部リングから内部コア領域に移動する事になる。 これは初期状態よりも だけエネルギーが増加した状態である。

このエネルギーの増加により、図2dに示す共鳴曲線が実線から点線に移動する。

励起された電子-ホールペアーは、やがてある寿命の後にフォノンとの相互作用により再結合し、初期状態に復帰する。

これに伴い、図2d中の共鳴曲線も点線から実線に復帰する。

従って、control gate 電圧を初期の共鳴状態に固定してトンネル電流をモニターすると、フォトンが吸収される度に共鳴状態が変化し、電流の on off on のスイッチングが観測される事になる。

以上が量子ドットによるフォトンカウントの原理である。

このスイッチングを観測する為には、熱エネルギーがスイッチングによるエネルギーよりも十分小さくなければならず、従って系全体を極低温(<150 mK)に冷却する必要がある。

フォトンの検出限界は、フォトン吸収に因らないスイッチング(ダークスイッチ)がどの程度の頻度で発生するかに依存する。 小宮山ら[1]の測定によれば、ダーク環境下で20分(1000秒)の間、ダークスイッチが観測されなかった。 これは20分に一回のフォトン検出が有意と認められる事を意味しており、既存の遠赤外検出器の検出限界を優に4桁以上上回る、極めて高い検出感度と言える[1]。

検出限界を決めるもう一つの要因である量子効率は、現段階では正確な測定がなされていないが、およそ1-10% の程度と推測される[4]。


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